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「悪童日記」原作:アゴタ・クリストフ『悪童日記』(ハヤカワ文庫)堀茂樹 訳

作品概要

戦時中、大きな町からおばあちゃんの住む小さな町に移り住んだ双子。そこで彼らが記述した「日記」が原作小説となっている。感情は不確かなものとして排除し、起こった事実だけを記述していく。その文体はあまりに簡潔で力強い。双子の一人称で書かれているにも関わらず、彼らの感情は読み取れない。後々行動に起こすまでは。

 この「文体の舞台化」を試みた。舞台上にあるのは五つの台と五人のパフォーマー。台も人も次々その形を変え、あらゆる場所・様々な人格を象っていく。そこにある身体は簡潔で力強く、雄弁だ。極力感情を排した言葉は、目に見えるそれとは違う何かを定義していく。そしてそれはまさに演劇の営みそのものなのだ。

演出メモ

小説「悪童日記」で最も注目すべき点は、双子の感情が文字では語られず、事件、すなわち彼らのアクションを通して伝わる点である。双子の感情が動いたその瞬間は、読者はそれを知りえない。小説の中で時間が経過し、その感情を起点としたアクションが描写されて初めて、読者は過去の双子の感情と向き合うこととなる。これは相当なインパクトを持って読者の心に響く。そして過激になっていく双子の行動に魅了される。

 ところが途中ではたと気づく。これは飽くまでも双子の一人称で書かれたもので、「真実」ではない、と。痛快に感じたあの行動も、彼らの独りよがりな正義感の上に成り立っている、と。ゆすり・窃盗・殺人、彼らの犯した数々の犯罪を、歓喜を持って受け入れた自分に愕然とする。たしかにこれはフィクションだが、日常との明確な境界線などあるのだろうか。かの大戦で行われた残虐行為もきっとこういうことではなかったのか。

 「ぼくら」という一人称で区別なく書かれた二つの人格。それらがついに別々の行動を取り始めた時、双子と共に我々も寄る辺なき責任の海原に放り出されるのだ。

日程 会場
2017年3月17〜21日 アトリエ劇研(京都)
25〜29日 こまばアゴラ劇場(東京)
4月15〜16日 シアターねこ(松山)

原作 アゴタ・クリストフ
翻訳 堀茂樹
脚色・演出 山口茜
出演 
高杉征司
松本成弘
日置あつし
芦谷康介
達矢
舞台監督:浜村修司舞台美術:夏目雅也
照明:池辺茜
音響:森永キョロ
衣装:南野詩恵
舞台監督助手:下野優希
illustration:本城まいこ
宣伝美術・舞台写真・記録映像:堀川高志
企画補佐:青木敦子
制作:トリコ・A・P3
芸術総監督:平田オリザ(東京公演)
技術協力(東京公演):鈴木健介(アゴラ企画)
制作協力(東京公演):木元太郎(アゴラ企画)
企画制作(東京公演):(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場主催:トリコ・Aプロデュース(京都公演、松山公演)、(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場(東京公演)
共催:アトリエ劇研(京都公演)、シアターねこ(松山公演)、NPO法人シアターネットワークえひめ(松山公演)
助成:芸術文化振興基金(京都公演) 平成28年度文化庁劇場・音楽堂等活性化事業(東京公演)、公益財団法人セゾン文化財団
企画・製作 トリコ・Aプロデュース

photo by Takashi Horikawa

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