笑の内閣「名誉男子鈴子」

とりあえず大千秋楽が終わってからアップしようと思って書き留めておいたものです。
思考を整理するために書いております。

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アフタートークにお呼ばれしたので、観に行きました。
チラシを見たときに、いつものチラシはあんまり好きじゃないんだけど、今回のは知り合いの中谷和代さんが中央にばーんと出ているようなもので、嫌な感じはせず、目を引いた。中谷さんの作る芝居とあまりにも違う笑の内閣。その組み合わせの妙が興味を引いた。

芝居が始まって、1時間40分、退屈だと思う瞬間はなかった。話はベタに進んで行くし、ベタなものは楽チンなところが好きだし。客席が湧いても全く笑えないし、笑えないのはやっぱり変わらずか、と思っていたけど、高校の先生(延命聡子さん)には笑わされた。あの人はコメディエンヌなんだな。

終わって、トークの時に「私のリテラシーが上がったので、楽しんで見ることができました」と述べた。以前は全くダメだったのに、拒絶反応が出なかったからだ。それはきっと、相当に身構えてみたせいもあるし、トークに出るという前提もあっただろうけど、何より、「メタコミュニケーションに気を取られず言葉の内容をしっかりと聞く」という訓練だと思って観たからだ。

私は、ついつい、人の仕草や体の動き、その場を支配する空気に気を取られ、言葉を聞けなくなる。それは対人でもそうだし、観劇でもそうだ。

笑顔で「よろしくお願いしまーす」と言われても、その人の体が拒否してたら、嘘をつけ、と思ってしまう。

芝居をしている俳優の身体が意図せずぎこちなかったり、何の間かわからない間が意図せずあると、一気に冷めちゃうのだ。そのセリフ、誰に向かって喋ってんの?とか、今回も山ほど思った。

だから、その部分がしっかり作られている芝居に惹かれるし、人間も、その部分に嘘がない人とは付き合いやすい。(てか、その部分に嘘があるかどうかなんて結局誰にも見極められないんだから、私が傲慢なだけなんだけど)

閑話休題。
そういう自分の反応に対する対策を練っていたので、割と言葉の意味の部分で楽しめた。俳優さんたちに皆、好感が持てたのも良かったと思う。誰も悪い人などいない。市長を演じていた人すら愛らしかった。そういうところは、高間節だなと思う。

トーク後半ではパンフレットに書いてあった高間くんの人間関係についての苦しみみたいなものにゴシップ的に言及し、私は高間くんが、割と表立って毒舌を吐く割に、自分が体裁を壊されると弱い、ということを知った。人間らしい面が見れて私はよかったけど、まあ、そういうの、お客さんはどうだったのかな。

で、終わって、もちろん帰れば我が子の時間があるわけで、芝居のことを忘れ、1日経ち、一人になってふと芝居のことを思い返したわけだが、

1日たっての感想としては、「女性の権利を叫びながら実際は女性を差別している」という言葉の通りの芝居だったな、ということだ。

私はそのキャッチフレーズが、実際にはどういう人間関係の拗れに発展するのか、ちょっと興味あったんだけど、なんというか、そのまま、だった。脚本の段階で、複雑さがまず、全くない。市長は悪者だし、市長の二番手は嫉妬にまみれているし、建設会社の社長は自分の利益だけを考えている。女っぽい甥は女性的だし、大学生は「なぜ?」と疑問を持つ。確かにそうなんだけど、それ以外の部分が垣間見えない。(そういう意味でいうと、池川さん演じる麦部がよく分からないキャラとして一番リアルだったと思う)中谷さん演じる鈴子も、表情から発言から、何から何まで非常にカリカチュアされた演技をするのだが、それが決して演劇ではなく事実としてあり得るのだと昨今ニュースで知らされた以上、

高間氏のオリジナリティはどこにあるのか、という思いが湧き上がってきた。

女性がのし上がっていくには、結局支配している男性の力を借りなくてはならない、という道は確かに現存するし、ものめずらしいものではない。ただその仕組みをそのまま立ち上げるだけでは、私には物足りない。ドラマが見たい。高間くんは、そんなもんには興味ないのかもしれないが。

私は、現存する人物や事件、世の仕組みを目の前に置いて、その場を借りて、一筋縄ではいかない複雑な人間を立ち上げ、その人間たちがどんな風に関係を紡いでいくのか、それを描く演劇が好きみたいだ。そういう意味では、最後の、娘が母を支えて家に帰ろうという部分だけは、わずかにオリジナリティを感じたが、その一瞬のために存在した他の一切の紋切り型キャラクターが不憫な気がした。

ただ、ただですよ、こういう紋切り型のキャラクターだけを出して、ド派手な演出で、2時間弱を楽しませ続けるというエンターテイナーを目指すのであれば、ぜひこのまま突き進んで欲しいと思う。そこを買ってるお客さんも多いだろうし。だが、もしそうだとしたら、1枚1万円前後の値段がするエンターテイメントを何本も何本も大劇場で観ていただきたいとも思う。そしてできれば、力のある劇作家と組む。別にその人たちの真似をする必要はないけど、今はただ、事実として、その面で、負けている。

高間くんを見ていると、自分自身をネタにし、身を粉にして生きているのがわかる。実際に会って喋ると、物腰の柔らかい、優しい男性だ(目は合わしてくれないけど)。女優に次々手を出す劇作家、演出家とは世界が違う。奥さんが大好きだとパンフに書く高間くんが、私は好きだ。

だから今後も、活躍して欲しいなと思いました。

ああ、頭の中が整理されました。
こんな機会をありがとう。笑の内閣の皆さん。