財産没収稽古2017.0611

恵美ちゃんが百均で買ってきてくれたテープで、舞台作りからスタートです。

今日は稽古開始から、セリフの割り振りを確認しました。
前回8割がた決めたのですが、まだ曖昧にしていたところがありました。
それを精査すべく、頭からセリフを読んでいきます。

途中で、少年少女が、自己紹介をするくだり。
立ち止まります。
自己紹介をするということはつまり、この人が誰であるかを劇の中で定義するということ。

そこをクリアするために、改めて、今回の三人の演者は誰なのか、をはっきり決める必要に迫られます。

初演では、

高杉さん→テネシー・ウィリアムズ、ウィリー
まっちゃん→テネシーの恋人、トム
恵美ちゃん→ウィリー、アルヴァ、不動産を差し押さえる州の行政官

という割り振りでやりました。これ、2年前はとても良いわけ方だと思っていたのですが、今回改めてそれぞれの役所と共通点などを吟味してみると、アラがいっぱい!それで、以下のように更新しました。

高杉さん→テネシー・ウィリアムズ、トム、ウィリー
まっちゃん→テネシーの恋人(=腐ったバナナ)
恵美ちゃん→姉、アルヴァ(=ボロ人形)、不動産をさしおさえる州の行政官

トム、というのはテネシーの事で、ウィリー、というのは、ウィリアムズの事。
つまりこの「財産没収」という戯曲は、まさに、テネシー・ウィリアムズの内面の対話、という風に解釈できるのですが、そうだとした場合に、初演の時の割り振りには齟齬がありました。

しかし改めて割り振りを決めたことで、かなりスッキリします。

これに従い、自己紹介も、高杉さんのアイディアですが、テネシーが「トム」と恋人に呼ばれながら、自らのことを「ウィリー」と名乗る、ということにすると、とても見やすくなりました。(初演では、テネシーが恋人を「トム」と呼び止め、なおかつ、自分のことを「ウィリー」と自己紹介していたのです)

この後、トムとウィリーが、お互いに「どうして学校に行かないの?」と聴きあうシーンが出てくるのですが、両方高杉氏が担う以上、この質問に高杉氏が2回答えることになります。しかし、連続で答えると意味がわかりません。

そもそも、初演でもこの2回の質問の合間に、テネシーが恋人に無理やり犯されそうになる、というシーンを挿入していましたので、これを引き続き採用することによって、2回連続の質問のおかしさを回避し、さらに意味を持たせることができそうです。

さて、このシーン、恋人がテネシーを襲うシーン。初演では、恵美ちゃんが「姉」として登場して、転がっていたお酒の瓶で恋人役のまっちゃんを殴り、かろうじて未遂に終わらせる、という風にしていたのですが、

逆に、犯されまいと逃げるテネシーを、恋人が瓶で殴り、犯してしまう、という風に踏み込んでみることにしました。その提案をしてみると、実際に、それが最も有用な解に思えてきます。

前回、恋人の強姦を未遂に終わらせたのは、どこかに、そういうものを見たくない、という私の極私的な感覚が反映されていたのかもと思いました。しかしテネシー・ウィリアムを扱う以上、私が見たいか見たくないか、ということはほとんど関係がなく、どちらが彼の劇世界にとって有用かということが重要になってきます。

どうも、悪童日記を経て、そのあたり、収まりの良い答えに安住せずあえて嫌なところに踏み込んでいくことで核心に迫ることができたりする、という経験が生き始めたようです。

ただ、実際にそれをやるとなると、とてもとても難しいお題です。
決して、生々しいものを見せたいわけではありません。
解釈はそうだけれども、そうだということが伝わるなら別の方法で見せたい。
ここは時間がかかりそうなので、とりあえず、暫定の動きを決めます。

恵美ちゃんやまっちゃんに、あえて、全然違う動きを提案してもらいます。
なかなかに難しい道のりです。

そして休憩。

男性陣がタバコに行った間、私と恵美ちゃんで、おにぎりを食べながら、恵美ちゃんが誰なのか、という話をします。

というのも、姉という役割だけなら筋が通っているのですが、彼女は、この家を差し押さえる行政官の役割も果たしているのです。この行政官、本来はウィリーのセリフの中に出てくるだけの存在。

一瞬、恵美ちゃんが姉だけをやった方が混乱がなくて良いように感じます。
でも、彼女が行政官をやることで、とても効果的な芝居に仕上がっているのも確か。

少し考え、彼女が不動産を差し押さえる州の行政官であるということ、それが、はっきりと観客に明確に伝われば、そのあと、彼女が「姉」におさまっても、「両方兼ねている」という解釈をすることができるのでアリだろう、という結論に至ります。

初演では、彼女の行政官としてのアクション、具体的には、この家にテープを張り巡らせて、ここを差し押さえる、というアクションの、リアリティについて、あまり議論し尽くしてなかったように思います。本来、家を差し押さえる時は、家の中にテープをバッテンに貼ったりしないからです。

でもそれは、抽象的な意味で、そうしているのであればオッケーです。
改めて、テープの色、それが抽象的なアクションであること、どのように貼るか、などを相談し、それに応じて、美術のことも少し相談しました。

そして、中央奥に扉を仮に置くことにしました。

実際に、奥に扉、斜めに一本、高さをとってテープを貼り、その状態で2ページ、通しました。

高杉氏と話す中で、「コンセプト」と「物語を起動させるための仕掛け」の違いを、体感としてつかめるようになってきました。これが、すごく、すごく面白いです。こう言う脳内の感覚を言葉で定義していくトレーニング、40歳にして遅いかもしれないけど、させてもらえて、感謝しかありません。

終わりに、詩恵ちゃんとスクが来て、気持ちがふわっと緩みました。